今年秋にテレビが伝えた、ハワイに入国しようとしたら拒否されて帰国させられたインフルエンサーの話。このインフルエンサーに限らず、アメリカで入国拒否が増えているのは売春を疑われたからであるという。このインフルエンサーの女性は、別室に呼ばれて、その後27時間拘束された挙句、日本に帰されてしまったのだが、売春を疑われたのは、日数に見合わない数の洋服を持っていたからだという。その後色々なところでニュースになったり、売春組織の取材に発展したりしているのだが、ツッコミどころはそこではない。
このインフルエンサーは、自分は無実であると言ってるみたいだが、ESTA申請時に職業を会社員と偽っている時点でまず虚偽申請である。また、「観光と言っているのに信じてもらえなくて」と言っているらしいが、ハワイで映像を撮ってYouTubeやInstagramにあげて、それでお金を稼いでいるのであれば、目的は取材や撮影であって観光ではない。ESTAは基本観光や知人訪問、セミナー参加など限られた目的でしか使えず、目的が取材や撮影ならば、H、I、O、Pなどのビザが必要である。入国目的がビザが必要な類のものであったにも関わらず、ESTAで入国しているのだから、不法入国、不法滞在にあたるものであり、アメリカへの入国を拒絶されて当然なのである。売春を疑われたとしても、ESTAで正しい申告をしていて、ESTAで足りる目的なのであれば入国は拒否されなかったはずであって、無実だと言ってる本人が全然わかってないのがまず問題であるが、報道関係者が無実ではないところを突っ込まないまま、売春組織と売春をしに行く人たちの犠牲にこの女性がなった、というような報道をしているのがトンチンカン過ぎる。また同じことをする人たちが増えるんだろうなあと日本人として恥ずかしいやら情けないやらである。
ハワイでの撮影については、以前はハイファビザ免除パイロットプログラム:HIFA (Hawaii International Film Association) Visa Waiver Pilot Programを利用することで、日本等このプログラム適用国の国籍者は、ビザなし渡航によってハワイでの撮影が認められていたらしいが、この特別規定はすでに適用がなくなり、ビザを取得しない限りは取材はできなくなっている。
取材や撮影をすることができるビザとしてはH1Bビザ=一般的な就労、I=ジャーナリストビザ、O、P=アーティストビザなどが考えられるが、どれもそう簡単には取得できない。H1Bはアメリカにスポンサーが必要であるし、アメリカ人より優れている人を就労させるためのビザで、基本的にはアメリカで修士以上取得していることが求められる。ジャーナリストビザは日本から派遣されて現地取材に行くというのが前提なので、ユーチューバーのような個人で活動している人だと取得は困難だろう。また、OやPなどアーティストビザの場合は、アーティストとしての能力がアメリカ人よりも優れていることや、世界的に有名であることが前提なので、これもそう簡単には取得できない。
先日B1B2を取得してアメリカで収入を得るような仕事をし、出入国を繰り返していたら突然ある空港で入国拒否されてしまったというびっくりなご相談もあったのだが、B1B2は、商談をするのに3ヶ月以上米国滞在する場合に利用できるのであって、その収入を日本の会社から得ていたとしても、アメリカで就労にあたる行為をすることはできない。また、ビザを取るのが大変だからと、取らないで入国していいということにはならないのである。取れない場合は本来ならその活動を諦めるしかないのだが、観光であると偽って入れば虚偽申請なので、見つかった場合にその後しばらくはアメリカへの入国はできなくなり、観光であってもB1B2を取得しなければ入国は困難になる。
日本が豊かだった時代には、売春目的でアメリカに入国するような人も少なく、多少ESTAの目的から外れていたとしても大目に見てくれていたのかもしれない。最近厳しくなってきたのは、日本人を他の先進諸国とは違い、アメリカにお金を稼ぎに来る貧しい国の国民扱いに変更したからなのかもしれない。そう思うと忸怩たる思いはあるが、方針を変えられてしまったならそれに合わせるしかない。もちろんアメリカだけでなく、他国に行く際には外国人であるということ=人権は制限されることを理解し、ちゃんとした知識を持って渡航してもらいたいと思う。